変形性膝関節症に適した再生医療として行っている、PRP療法、APS療法について説明します。
これらは変形性膝関節症に対する最新治療です。
今まで変形性膝関節症の治療としての注射はヒアルロン酸の注射がメインでした。
また、炎症が非常に強い時は痛みを軽減するステロイドの注射をする場合もありますが、合併症として骨の破壊が発生し、ステロイド関節症を発症することがあり注意が必要です。
PRP療法、APS療法とは
PRP療法、APS療法ともに自分の血液を利用した最新の再生医療の注射です。 PRP(Platelet Rich Plasma)というのは、多血小板血漿(たけっしょうばんけっしょう)のことで、血小板を濃縮した血漿のことを言います。血小板には創傷治癒や組織再生に効果的な成長因子が多く含まれており、PRPを局所に移植することによって組織再生を促進させます。
当院ではPRPをさらに高濃度に構成しフリーズドライ化(凍結乾燥)したものを採用しています。PRPはフリーズドライ化することで傷の治癒に作用する血小板が濃縮され、細胞分裂を促す成長因子を豊富に含みます。
APS(Autologous Protein Solution)は、次世代の再生医療として、さらに濃度の高い成分を凝集することで得られる因子を抽出したものです。
PRPとAPSの成長因子
成長因子には1万以上もの種類があります。この中には、細胞の増殖や血管新生、抗炎症などに作用するものがあり、これらが痛みや損傷がある患部の修復や抑制、軽減などに役立ちます。
PRP注射、APS注射には以下のような多彩な成分が含まれています。
これらを損傷している部分に注入することで、患部の修復機能を一時的に高める効果があります。
自分の血液を用いた治癒能力で痛みの改善を期待するものです。
PRPの成長因子
- TGF-β:・損傷した組織や筋細胞の修復と調整・コラーゲンの生成
- PDGFa-b:・組織の修復に関わる細胞分裂を促進・コラーゲンの生成
- VEGF:・血管や炎症を調整する細胞を増加・血管形成にも関与
- bFGF/EGF:・軟骨細胞や骨芽細胞の増加促進・骨や血管の再構築を促進
- CTGF:・軟骨の修復や線維化を促進・血小板の付着が優位な状態を作る
APSの成長因子
- 抗炎症性サイトカイン(IL-1ra, sTNF-RI, sTNF-RII, IL-4, IL-10, IL-13, IFNγ)
炎症性サイトカイン(IL-1, TNFα)の働きを阻害する - 血小板由来成⻑因⼦(PDGF-aa, PDGF-bb)
細胞の複製を刺激し、 血管形成・上皮形成・肉芽組織形成を促進する - 形質転換成⻑因⼦(TGF-β1, TGF-β2)
細胞外マトリックス形成を促進し、骨細胞の代謝を調節する - 線維芽細胞増殖因⼦(FGF)
内皮細胞および線維芽細胞の増殖を促進する
次のような膝の痛みでお困りのかたは、再生医療を試してみる価値はあると思います。
- ヒアルロン酸注射の効果がない
- 人工関節の手術を勧められているが、手術はしたくない
- 1回の注射で長い鎮痛効果を得たい
- 慢性化している膝関節痛を改善したい
(当院実績:2021年~2023年 再生医療実施件数 144件)
PRPとAPSを適用する症状レベル
変形性膝関節症に対しての再生医療であるPRP注射は、どれくらいの膝のレベルまで効果が期待できるのでしょうか?
変形性膝関節症の分類では5段階で分類されています。
Grade 0:正常
Grade Ⅰ:関節裂隙狭小のないわずかの骨棘形成 , または軟骨下骨硬化
Grade Ⅱ:関節裂隙狭小(25% 以下)あるも骨変化なし
Grade Ⅲ:関節狭小(50%~75%)と骨棘形成 , 骨硬化像
Grade Ⅳ:骨変化が著しく,関節裂隙狭小(75% 以上)を伴う
あくまでも私の見解になりますが、Grade Ⅲまではある程度効果が期待できると思います。
しかし、Grade Ⅳになると関節軟骨が消失しており、変形が重度であるため効果が薄いかもしれません。
Grade Ⅳの場合は人工膝関節全置換術を受けるのがいいでしょう。ですが、人工膝関節全置換術を躊躇される場合は一度PRP注射、APS注射を試してみてもよいかもしれません。
PRP治療、APS治療の流れ
PRP治療、APS治療それぞれの治療の流れを説明します。
PRP治療
APS治療(当日治療可能)
PRP治療、APS治療の費用
PRP治療、APS治療は最新の再生医療であるため、保険適用外=自由診療となります。
※初診料や検査費用は保険適用内です。
PRP-フリーズドライ | シングル | 165,000円(税込み) |
PRP-フリーズドライ | ダブル | 330,000円(税込み) |
APS | 330,000円(税込み) |
PRP治療とAPS治療の主な違い
PRP治療とAPS治療の違いについてまとめました。
PRP療法 | APS療法 | |
---|---|---|
適応 | 変形性膝関節症 Grade Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ | 変形性膝関節症 Grade Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ |
治療の流れ | 1日目採血、PRP-フリーズドライ生成3週間、再来院時注射治療 | 採血、当院内にてAPS生成、注射治療 |
治療来院回数 | 2回 | 1回(当日治療) |
費用 | 165,000円(税込) | 330,000円(税込) |
PRP治療とAPS治療に係る主なリスク、副作用等に関して
PRP治療とAPS治療は治療後数日間は、軽度の炎症、痛みや腫れ、発赤などの症状が見られる可能性がありますが、徐々に改善していきます。後遺症が残ったり、処置が必要となるような重大な健康被害は報告されていません。
PRP治療とAPS治療の安全性
再生医療(PRP治療、APS治療)はどこの病院でも受けられるのではなく、厚生労働省への届け出が受理された医療機関で提供される治療法です。
当院では、再生医療法(再生医療等の安全性確保等に関する法律)により、第二種再生医療計画を提出し受理されています。PRP治療とAPS治療を受けてみたいという方はお気軽にご相談ください。
【執筆】塗山正宏 医師
世田谷人工関節・脊椎クリニック
日本整形外科学会認定整形外科専門医