※この記事は、幻冬舎ゴールドオンラインに寄稿したものです。
最近、「靴下を履くのが辛い」と感じることはありませんか。実は、 その状態を放置しておくと、やがて歩けなくなる危険もあります。一体、どんな病気が隠れているのでしょうか。また、そうした自覚症状がある場合、どう対処したら良いのでしょうか。医師の塗山 正宏が詳しく解説します。
目次
「靴下が履けない」は「変形性股関節症」の疑いあり
「最近、靴下を履くのが辛くなった」と感じながら、そのまま放置している人は多いのではないでしょうか。しかし、それはとても危険。実は、そうした症状の影には「変形性股関節症」という大きな病気が潜んでいるかもしれないのです。
日常に潜む「股関節」の不具合
「靴下を履くのが辛い」だけでなく、次のような症状がある場合にも注意が必要です。
- 足の爪を切るのが辛い
- 靴を履くのが大変
- 和式トイレでしゃがむのが苦しい
こうした症状がみられる場合に考えられるのは、「変形性股関節症」という病気です。これは文字どおり、股関節が変形することによってさまざまな不具合が生じる病気で、実は、「靴下が履けない」などの自覚症状がある時には、すでにかなり進行した状態です。
初期の頃には立ったり座ったりするときに、脚の付け根や太もも、お尻のあたりに違和感を感じる程度ですが、さらに進むと「しゃがめない」という症状が現れるようになります。
また、歩行するときに足が痛くなるため「歩きたくない」→「脚の筋力が落ちて動けなくなる」→「ますます歩けなくなる」という悪循環に陥りやすくなります。
発症しやすい人のキーワードは「加齢」「女性」「遺伝」「肥満」
変形性股関節症は決して珍しい病気ではありません。自覚症状がありながら、医師の診察を受けていない人もいるので正確な数はわかりませんが、X線診断による日本の患者数は1.0~4.3%で、現在の日本の人口に換算すると、約120万〜540万人にものぼるともいわれています。(※1)
※1 https://minds.jcqhc.or.jp/docs/minds/osteoarthritis-of-the-hip/osteoarthritis-of-the-hip.pdf
P10.国内におけるX線診断による変形性股関節症の有病率は1.0~4.3%
特に、変形性股関節症になりやすいのは、「女性」です。また、「遺伝」が原因となって発症することも多く、特に女性は生まれつき股関節がずれていたり、骨盤の発育が不全だったりすることが多いため、女性が変形性股関節症を発症する場合、遺伝的要因が引き金となっていることが大半です。
しかし、男性だからといって油断はできません。なぜなら、「加齢」や「肥満」も変形性股関節症の大きなリスクとなるからです。どちらも股関節に大きな負担を与え、ますます機能を衰えさせてしまいます。
変形性股関節症とは「関節の軟骨がすり減ること」
一体、変形性股関節症とはどのような病気でしょうか。簡単にいうと、「股関節の軟骨がすり減ったことにより起こる、さまざまな症状」と定義されます。股関節の軟骨がすり減ると、骨が変形してしまいます。
そのため、股関節の痛みや違和感が生じたり、動かしにくくなったりするのです。
股関節の構造は「ボール」と「ソケット」
股関節は人間の体のなかで、もっとも大きな関節のひとつです。股関節は「大腿骨」という太ももの骨と、「骨盤」で構成されています。大腿骨の頭の部分(大腿骨頭)はボール状になっていて、一方の股関節には、寛骨臼というソケットがあります。
つまり、このボールがソケットにスッポリとはまることで、股関節は可動範囲が大きくなり、自由度の高い動きをすることが可能なのです。
ボールとソケットの表面は軟骨に覆われており、軟骨はクッションの役割をしています。しかし変形性股関節症になると、このクッションがすり減ってしまい、ボールとソケットがぶつかりあってしまいます。そのため、痛みや可動域の制限が現れ、ひどくなると、骨まで変形してしまうのです。
放置すると「歩けなくなる」リスクも!
このように、加齢や肥満などが原因となって軟骨がすり減り、関節が変形していく病気は、股関節だけでなく、膝や指などにも現れます。
患者数が最も多いのは、症状が膝に現れる「変形性膝関節症」で、40代以上の女性のうち、60%以上が発症しているといわれています(※2)。
※2 https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/57/11/57_571102/_pdf
40歳以上で見ると,変形性膝関節症の有病率は男性42.6%,女性62.4%であった
変形性股関節症は、そこまで患者数が多くないとはいえ、けっして軽視できない病気です。
なぜなら、そのまま治療せずに放置すると、歩けなくなったり、人工関節を埋め込まなければならなくなったりするからです。
変形性股関節症は完治する?
変形性股関節症と確定診断がついたら、薬物療法や運動療法による治療が行われます。
薬物療法では、消炎鎮痛剤(抗炎症薬)を用いて、炎症を抑え、痛みを和らげるのが一般的です。また、運動療法では股関節周囲の筋力を鍛えることで、股関節への負担を軽減し、股関節の可動域を広げていきます。
しかし、これらの治療を行っても症状が軽減されない場合や、病状がかなり進行している場合には、手術を検討します。
手術には大きく分けて2種類あり、自分の関節を温存する「関節温存手術」と、関節を人工のものに置き換える「人工関節置換術」から、状況によって選択します。
特に、人工股関節置換術の技術は近年めざましく進歩しており、これらの手術を行うことで、以前と変わらない日常生活を送ることが可能になります。
しかし、手術はあくまでも最終手段。できるだけ早めに診察を受ければ、日常生活の改善で病気の進行をストップできる場合もあります。どんなに小さな変化でも、股関節の違和感を見逃さないようにしましょう。
変形性股関節症を予防するには「筋力訓練」が大切
変形性股関節症は、一旦発症すると慢性化して、少しずつ関節が変形していきます。そのため、変形性股関節症を発症したら、トイレを和式から洋式へ変更する、体重のコントロールを行うなど、股関節への負担を減らし、脚にやさしい生活習慣へ変えていくことが必要です。
一方、症状を進行させないために、適度に筋力訓練を取り入れることが大切です。股関節周辺には多くの筋肉が集まっていますが、特に、腸腰筋、中臀筋、大臀筋を鍛える運動が役立ちます。
すでに発症している場合だけでなく、予防にも良いので、日常生活の習慣として、お風呂上がりなどに行ってみましょう。
本記事は、オンライン診療対応クリニック/病院の検索サイト『イシャチョク』掲載の記事を転載したものです。続きはコチラ>>
※筋力訓練を行う際の注意点
無理な運動はケガの原因になります。痛みや違和感がある場合はすぐに中止しましょう。
執筆者
世田谷人工関節・脊椎クリニック医師
塗山 正宏
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